新潟市美術館の問題が、一昨日、たしか4月14日付けの毎日.jpに記者の署名入りで掲載されていて、このことをブログに書こうかどうか迷っていたら、やくぺん先生がブログに取り上げられて、そうだなぁ、やっぱこういうのは黙ってても議論にならないからなぁと思ったので、書きます。
新潟市美術館での問題は、一言では何が問題で、何が原因で、誰の責任だ、とは言いにくいんじゃないか、というのが私の見方です。私が思いつく限り、館長の任命のあり方、職員の人事のあり方、事業企画のあり方、作品や施設の維持管理のあり方、それぞれに、原因や責任を丁寧に論じることが大事だと思います。
同時に、すべての原因と責任は決して切り離せない、という見方も分かるんですが、それは例えば企業や行政でも、組織の中で不祥事があったときに、トップが頭を下げたり交代したりすることで丸く収めようとすることにも繋がる気がして、ホントにそれで解決したの?と私は聞きたくなってしまう。
また、先日の毎日.jpの書き方は、その問題が、指定管理者制度、博物館法、美術館本来のあり方といった、かなり大きな話にまで繋げて論じていました。たしかに、そこまで広げて考える意味もあるかもしれないけど、博物館法には固有の意義も課題もあり、指定管理者制度にも固有の意義も課題もあるわけです(もちろん絡んでいるから厄介なんだけど)。
ましてや美術館本来のあり方なんて、美術館に関わる人の数だけあると言ってもいいんじゃないか。保存と研究が美術館本来の使命だとする考え方は、大事な使命の一つだとは思いますけど、唯一じゃないと思うし、地域の活性化が使命の美術館も、あっていいと思うんですね、私は。
私は、新潟市美術館の問題は、甲虫やカビも問題ですけど、むしろ館長の任命と職員の人事の問題だと思います。で、これは、劇場法(仮称)の論議にもつながることです。
例えば、私が知る範囲で言うと、アメリカの劇場は、芸術監督の任命や交代は理事会が行うもので、劇場内部の人事は、芸術監督にかなり権限があると思います(決定は理事会だけど)。なので、芸術監督が変わればスタッフが変わるのは、「いいかどうかは別として」変なことじゃない。だから、新潟市美術館で、前・館長が就任されたときに、学芸員が「異動」になったのは、「いいかどうかは別として」アメリカの劇場を例にすれば、そんなに驚くことではないです。
日本の場合、公立の劇場、ホールは、指定管理者制度の導入以前から、公設の財団法人が運営するケースが多く、財団は自治体から独立した機関であるとはいえ、人事や予算は自治体の長や議会が握っていると言ってもいい状況です。ただ、財団職員の多くは、準公務員的な雇用形態ですが、館長や芸術監督の多くは、非常勤だったり嘱託契約的な形態。だから、館長や芸術監督は任期を決めて契約し、問題なければ更新し、問題があれば任期満了で交代。でも、職員は準公務員的に雇用しているから、館長や芸術監督が交代しても、基本的に退職することも、解雇されることもない。
そのねじれた状況を、劇場法(仮称)が、どのようにクリアしていくのか。私は、そこが結構、難しい問題のように思っています。
4 件のコメント:
なるほど、アメリカは猟官制(大統領が変わると官僚もごっそり入れ替わる)というわけですね。
だとすると、日本の雇用慣行や労働市場の硬直性(一旦失業すると同種の職業につくことは難しく、職種やそのランクを落としてしまう)を考えると、アメリカのようにするのは難しいですね。
あともう一つ、指定管理者の職員の冷遇か当初から問題になっています。
職員の労働日を週20時間以内とし、社会保険加入義務を逃れるやり方です。実はこれは以前の公益法人による管理委託制度の下でも行われていたもので、自治体職員(公務員身分)だと、地方公務員法の縛り(給与条例主義・職階制等々)があるため、労働固定費が節約できない。しかし、公益法人のプロパー職員を雇い、この人たちを非常勤やパートとしておいて、主要な管理的ポストだけを自治体出向(自治体派遣)職員として置いて監督させる。
これらは“一石長”で、自治体直営ではない(天下り法人??)ため、一旦寄付行為として支出された資金について、議会のチェックも間逃れるという“おまけ”もついているのです。
現在の指定管理者制度も、悪く言えば、この“おまけ”のためだと言う見方ができるようにも思います。
endouさん、再びコメントありがとうございます。
たしかに、アメリカの労働市場のあり方を日本にそのまま適用させることは難しいですね。
ただ、幸か不幸か、日本の公立のホールや劇場の職員は、ご指摘の通り「公益法人のプロパー職員を雇い、この人たちを非常勤やパートとして」いる。これはいまは不幸な面が大きいと思うんですけれども、もしかしたら、劇場法(仮称)を契機に、優れた資質のプロパー職員が、キャリアアップのために別のホールや劇場に転職する機会が増えるかもしれない、と思ったりします。
つまり、劇場・音楽堂として認定を受けたいような公立のホール・劇場は、主要な管理的ポストに自治体出向(自治体派遣)職員を置くよりも、優れた人材を獲得しようとすれば、他のホールや劇場で、今まで自治体出向職員の部下で劣悪な条件で働いてきた優秀な人材をリクルートして、管理的ポストに置く、というような人事の流動性が生まれるとしたら、それはそれで、いいかもしれないと思ったりします。
どうでしょう、そんなに簡単にはいかないかな?
Torao Ohsawa さん、リコメントありがとうございます。
劇場法(仮称)については、いろいろと議論があると思いますし、関係者からは期待感を持って見守られているようにも聞いています。
しかしその一方で、自治体職員からは、この不景気に面倒な法律が出来ると困るという声も聞こえてきます(実際、現場の声です!)。
地方の劇場では、興行場法の適用(月5回以上稼動)を逃れるため、劇場の利用回数を、集会や研究発表と興行にわざわざ分けて保健所に届け出たり、公文協から脱退する動きも出てきています。
舞台技術管理(民間委託や指定管理者が多い)も、催事のある時だけ(つまり非常勤体制)で、普段は無人の小屋も増えている状況です。
県庁所在地など主要都市以外の自治体の動きとしては、なんとかして“劇場に該当しない集会施設への格下げ”を模索する方向に動いてしまう、そして管理水準も、ただでさえ(現状は既にビル管法や消防法に違法状態!)危険な地方の劇場がもっと危険な建物になるのではないか??・・と懸念しています。
労災で1人死亡者が出ると倒産する民間事業者と違って、死亡事故が起こっても自治体は倒産しませんから・・・。
endouさん、ありがとうございます。とても勉強になります。
私は、劇場法(仮称)に賛成する理由も分かるし、反対する理由も分かります。で、反対する理由の一つには、endouさんのご指摘と同じことを考えています。
法によって「創る劇場」「観る劇場」「集会施設」という階層化が促されるとしたら、「集会施設」を選択する自治体は少なくないんじゃないか。そういう施設では、当然、管理水準も低くなるだろうし、ますます指定管理者制度の問題が顕在化することになるんじゃないか、という想像もしています。
「法律」というのは、魚に網をかけるようなものだとイメージするんですが、「網からこぼれる魚は魚じゃない」ということになってしまわないようには、どうすればいいんでしょうかね。
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