6.07.2011

どうして音楽、舞踊分野からは声が出ないの?

日本文化芸術振興会の「文化芸術活動への助成に係る新たな審査・評価等の仕組みの在り方について(報告書案)」へのパブリックコメントで、ブログやtwitterでの発言が活発になっているのですが、どうも気になるのが、演劇以外の分野、とくに音楽や舞踊分野からの声が聞こえてこないことです。これは、劇場・音楽堂法(仮称)に関する議論でも同じなんですけれども・・・。
どうして音楽や舞踊の関係者から、この手の議論について声が挙がりにくいのか。この先は私の憶測で、誤解があったらお詫びして訂正して削除しますが、単に音楽や舞踊の関係者は演劇関係者に比べて育ちがいいとか、異議申し立てをするような声の大きな人がいないとか、そういうことではないんじゃないか。
結局、クラシック音楽やクラシックバレエには、近代日本の夜明けとともに海外から輸入して以来、中央(東京)が頂点、地方は裾野という構造が相当強固に残っているということだと思うのです。その構造には、業界全体として統率できて安定している(だから国も保護しやすい)といった長所もあるんじゃないかと思いますが、逆に、業界にイノベーションが発生しにくいだろうし、地方に突出した才能や活動があるとしても看過されやすい(だから地方では育ちにくい)んじゃないか。
その一方、歴史的に浅い現代演劇やコンテンポラリーダンスは、クラシック音楽やクラシックバレエに比べてマーケットは小さいかもしれないけど、かならずしも東京を経由せずとも、世界から地方に飛び込んでくることも、地方から世界に飛び出していくことも、そんなに珍しいことでもなくなったわけで。
例えばイギリスではサイモン・ラトルとバーミンガム市交響楽団、例えばドイツではピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団のように、突出した才能と地方に根差した芸術団体が出会い、世界にも類い稀なる表現を生み出しました。そういう現象が日本のオーケストラや舞踊団に発生する可能性ってあるのでしょうか?私は、英国アーツカウンシルの長い歴史におけるRegional Arts BoardやRegional Officeの役割があったこと、ドイツでは、戦後一貫して国よりも州政府に文化高権があったことは無関係じゃないと思うのです。
国がアーツカウンシルを整備するこのタイミングで、これまでの業界構造を振り返り、声を挙げる人がいてもいいんじゃないかと思いますけど、いかがでしょうかね。

3 件のコメント:

takasaki さんのコメント...

私はその分野素人ですが、きっとそうなんだと思いこみます。
説得力があったので。

もちろん、有力な反証があれば転向しますが。

Yakupen さんのコメント...

本気で考え始めると面倒なので敢えて考えないようにしている問題をはっきり提示していただき、有り難う御座います。

さて、例に出された芸術団体について、ひとつ音楽業界からの「常識」を記しておきます。ラトル&バーミンガム響は、あるはっきりとした意志を持ったプロデュース作業があった結果である、ということ。

20代でラトルの才能を見出した英国の某マネージメント会社が、競争が激しく、東京同様に音楽の大消費地であるロンドンという大都市に置かずに、わざわざバーミンガムにこの若い指揮者を置いた。ロンドンにいると、批評家やファン、はたまた楽団員から不必要な批判を受け、才能が無駄に摩耗する可能性がある。そこで、メディア産業の中心たるロンドンから適当に近く、でも適当な遠く、ラトルが育て上げさせるに適当な潜在力を持ったオーケストラがあり、都市にオケがひとつしかないので地元ファンもメディアも暖かく眺めてくれる場所で、みんなで一緒になって大事に大事にラトルという才能を育てた。一種の帝王学を学ぶ状況を作ったわけです。そしてラトルは、見事にそれに応えた。

イギリスの音楽業界の産業としての奥の深さは、こういう状況設定が出来るところにあります。ホントの意味での「業界」です。

今、日本でも、ホントに才能のある奴は東京ではやらない方が良い、という機運が出てきています。札幌交響楽団、山形交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢、名古屋フィル、広島響など、東京ではあり得ない展開をしつつある地方オーケストラもあります。

オーケストラに関する限り、今は東京よりも地方の方が遥かに面白い。また一方で、東京のオーケストラの地域密着の地方化も進んでいる。それが「世界レベル」の才能かは、また別ですけどね。

タイトルに沿わない内容になってしまいました。失礼しました。

大澤寅雄 Torao Ohsawa さんのコメント...

Yakupen先生、コメントありがとうございます。
ラトルの話は、イギリスの「音楽業界」と「地域文化」の成熟度を物語るとてもいいエピソードだと思います。また「音楽業界」と「地域文化」は相反するものではなく、両者の環境が互いを支え合う生態系を作っているということの、非常に良いモデルのような気もします。
日本で「オーケストラに関する限り、今は東京よりも地方の方が遥かに面白い」という言葉に、私は期待を寄せています。音楽業界だけでなく、文化も、政治や経済も、これからは地方が東京に搾取される立場ではなく、地方同士が(東京も地方の一つとして)お互いを支え合う生態系を作る。
文化は政治や経済よりも先にそれを提示すべきだと思います。
極めて有意義なコメント、感謝しております。

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