4.01.2010

劇場法(仮称)について、考えたこと

さきらでのセミナーで、劇場法(仮称)のことを自分なりにいろいろ勉強しました。ちょうど、その1週間ほど前に朝日新聞に平田オリザ氏や演劇関係者のコメントが紹介された記事が掲載されたこともあり、ブログで書かれた人もいるようです。
私は、いまの段階での劇場法(仮称)の姿を正しく捉えているかどうかが不安になるのですが、一つは、芸団協さんが2009年3月に行った提言で、もう一つは、昨今の平田オリザさんのメディアでの発言です。私は、芸団協さんの提言を基本的に踏まえつつ、オリザさんがより踏み込んだ案を考えている、という理解をしています。
私は、今のところ劇場法(仮称)に賛成とも反対とも言えないのですが、どちらにしても、十分に議論することが大事だと思っています。議論することで、いまのホールや劇場のあり方、身近にある文化施設について問い直すことは必要だと思います。
そこで、さきらでのセミナーでは、芸団協さんの提言で、その中の「劇場法(仮称)に定める主な内容」という部分について、考えたところを整理してみました。もしかしたらポイントがズレた見方もあるかもしれませんし、他の部分を読めば理解できるポイントもあるかもしれませんが、とりあえず考えたことを。

◎「国」の視点で考えたとき
- そもそも「劇場・音楽堂」に法律は必要か。
- 公立文化施設以外の文化施設は劇場法の対象とならないのか。
- 今、劇場に必要な専門人材はいるのか。いかにして育成することができるのか(特に「芸術責任者」となる人材)。
- 劇場・音楽堂としての「必要な一定の要件」とは何か。また、公立文化施設を、どのような手段で「認定」するのか。

◎「自治体(設置主体)」の視点で考えたとき
- 自治体の設置する劇場・音楽堂の人事、事業、経営に対して、国がどの程度関与するのか。
- 設置した公立文化施設を含め、地域の長期的な文化振興のビジョンを有しているか。
- 文化振興のビジョンについて市民の声を聞き、評価や検証を行い、市民にフィードバックする体制は整っているのか。
- 文化振興のビジョンを担う文化政策の担当部署、担当職員はいるのか。
- 文化政策の担当部署と公立文化施設や芸術団体、NPO、アーティスト等のネットワークは形成されているか。

◎「公立文化施設の経営者(財団の理事会や評議会など)」の視点で考えたとき
- 経営者は設置主体である自治体の文化振興ビジョンを共有しているか。
- 経営者は「専門人材」の雇用と経営への関与に対してどの程度受け入れられるのか。
- 経営者は「施設の優先使用を含む芸術団体との連携協定」にどの程度受け入れられるのか。
- 経営者は、自らの「経営責任」をどのように考えているのか。

◎「公立文化施設の職員」の視点で考えたとき
- 既に文化施設で実務経験のある職員は「専門人材」に該当するのか。
- 専門人材には資格や認定が必要なのか。
- (本人の資質とキャリア形成において、一つの公立文化施設に長期間在籍することが最適か。
- 劇場・音楽堂での雇用は本当に増えるのか。雇用に関する情報は開かれるのか。人事の流動性は担保されるのか。

以上は、私が着目したポイントで、これを法や制度で定めるべきだとか、提言を作成した芸団協に問いただしたいとか、そういうことではないです。
あと、私が劇場法(仮称)の提言の中で共感している部分は、劇場やホールは単なる「公(おおやけ)の施設」ではないということと、専門的人材が配置されるべきだということ、その専門的人材の一つに、芸術面の責任を負う人材が必要だということです。それらが法で定められるべきかどうかは、今は何とも言えないんですが。

2 件のコメント:

takahagi さんのコメント...

大沢様

フリンジで見て、大沢さんの疑問に沿って考えてメモを作りました。CPネットにも投稿してあります。さまざま、議論がでて良いものになればと思っています。

「劇場法」または「芸術拠点整備法」について     100416    高萩メモ

この法律は、文化芸術の事業を自ら企画し創造・提供する公共の劇場・音楽堂に関して、館・設置自治体・国のそれぞれの役割を規定する。
地域に役立つ文化芸術事業を持続的に営んでいけるように、劇場・音楽堂の内部に経営責任者をおき、複数のファンドレイズ先から資金を集められるようにし、専門家を雇えるようにする。

館:    文化芸術活動を自ら企画し、創造・提供する。
そのための芸術的な方針を決定できる人をおく。
経営・技術・教育普及の責任者をおく。
設置自治体:建物のメンテナンスの責任を負う。
事業費へ一定の補助を行う。
国:    認定により、一定の要件を満たした館について、一般的な指定管理者制度からはずすことを可能にする。
      国からの事業を肩代わりする実力があると認めた館には、助成金を持続的に交付する道をひらく。

◎ 「自治体(設置主体)」との関わり
・ 指定管理者制度との関わり
 この法律により、文化芸術施設の運営者を数年ごとに入札で決めていくような指定管理者制度から、地域において文化芸術振興の拠点となる館をはずすことを可能にする。
そのことで、地域の文化芸術振興プランを長期的な視点で作っていける。

・国からの補助金の獲得に関して
認定劇場への補助金に関しては、認定が直接には補助金の獲得に結びつかないが、劇場・音楽堂として認定された芸術施設への新たな補助金として、本来、国が行うべき仕事(国際交流、人材育成、作品創造)の事業費に一定割合(事業費の2分の1または3分の1)で助成金を出す。
助成金に関しては、3年ごとの更新で、継続も可能とする。

・芸術拠点の助成金獲得の要件(以下のような基準が考えられる)
自ら創造している
国際交流事業を行っている
人材育成に貢献している
教育普及事業をおこなっている。
館の運営が、アートNPO、アーティスト、他地域の館、海外へと開かれている

◎「国」との関わり
・ 劇場・音楽堂に法律は必要か?
指定管理者制度によって、効率的運営など地域の文化芸術施設の目的があやふやになってきたところから、この認定により、いくつかの館に地域の芸術文化振興の拠点という役割を担わすことができる。
本来、国立劇場など国立の機関が担うべき舞台芸術・音楽部門における人材育成、国際交流、などの事業の一部を継続的に地域の公共の館に担わす道を開くことができる。
   公共文化施設の利用方法として、「一般貸し館」だけではなく「芸術享受」も、市民の利用方法とする、ことを認めることで、レジデントやフランチャイズの芸術団体の優先利用の道が開ける。

 ・認定の方法
認定に関しては申請によるものとし、指定管理者制度によらず継続的な運営が行えるなどにメリットはあるが、必ずしもこの認定と国からの補助金がセットされているものではないとする。
NPOと同じで、一定の要件を満たせば認めていく。

・認定にあたり必要な条件
人材配置:経営者としての責任者、芸術面の責任者、技術面での責任者
芸術のアウトリーチを担当する人材
ハード:舞台機構・客席の一定の数、音響への配慮など
文化振興ビジョン:設置自治体が、文化振興ビジョンを持っていること
文化振興ビジョンの評価方法が地域でしっかり確立していること
館:館が芸術振興の3年計画、5年計画を持っていること

・助成金に関して
助成金に関しては、日本版アーツカウンシル(これも作らなければならないが)の、芸術拠点整備プログラムオフィサーが起案し、委員会が決める。活動内容を吟味し3年ごとに更新するような助成金制度とする。
「自ら創造または提供する劇場への新たな助成金」(事業を担当する人材の委託人件費まで含む事業費への一定の割合での助成金)の交付先を、この法律により認定した館の中から選ぶ。

・公共劇場、民間施設の区別
今回は、地域の公共文化施設を対象とする。
民間施設などは、税制優遇などのスキームで保障すべき。

◎「公立文化施設の経営者(財団の理事会や評議会など)」との関わり
・劇場側の要件
公益法人であること。
設置主体である自治体と文化振興ビジョンを共有している。
劇場・音楽堂の経営責任者は、館として、3年、5年計画を持っている。
事業に関しては、芸術ジャンルの専門人材を雇用すること
芸術監督のいる劇場の場合、芸術監督の指針として、芸術団体との連携は可能。
指定管理者制度の中で、一般貸しだけの施設としないということを認めさせていく
公益法人では、経営者は理事会の一員として館を運営し、評議会に対して責任を負う。
・ 経営的視点
指定管理者制度への対応におわれることなく、長期的な運営、人事政策の道が開ける。
設置自治体からだけでなく、国から、また専門施設として、民間・個人からの寄付を集める根拠となる。
設置自治体の持つ、自治体としての人事のしばり(総定員、アルバイトの雇用など)、支払い関係のしばり、から逃れて民間的発想で経営が行える。

◎「公立文化施設の職員」との関わり
・雇用という観点
既に芸術文化施設で働いている人に関しては、専門人材と考える。
その上で、数年のキャリアと数年毎のアーツマネジメントに関する何らかのセミナーの修了などを専門家への要件とする。
同種の館の人事交流を活発化させる。キャリアパスのモデルケースを提案していく。
自治体からの派遣の人が経営責任者である状況では、自治体の総定員法の縛りもあり、予算・事業が増えても職員は増やせないが、雇用形態の多様化含めて、事業拡大の可能性は多々ある。
ボランティア、インターン、契約、常勤契約、職員、というような多様の働き方のバリエーションを持つ

・人材の育成
  鶏と卵のようなもので、職がなければ人は育たないし、人がいなければ職も確立しない。経営責任者、芸術責任者、技術責任者、教育普及責任者に関して、まず、専任させオン・ジョブ・トレーニングで、人材を育成し、国内の人事交流を盛んにして育てていくしかない。
  舞台芸術の専門家のキャリアパスを設定する。



◎「地域の住民」との関わり
・地域の活性化
公立文化施設の事業が活発化することで、下記のような良い変化が出てくる。
地域の教育にも舞台芸術家の派遣がしやすくなる。
一流の舞台芸術鑑賞が容易になる。
各種芸術プログラムへの住民の参加が活発に行われる
興行が頻繁に行われることで、人の行き来が盛んになり、地域社会が経済的に、
社会的に、活性化する。
地域の、横のつながりだけでなく、立てのつながりも出てくる。

大澤寅雄 Torao Ohsawa さんのコメント...

高萩さん
お久しぶりです。お元気ですか?
コメントありがとうございます。
とても丁寧に私の疑問に沿ってお考えを答えていただき、本当に恐縮です。
少し「そもそも論」的なことから議論の輪を広げてもいいかな、と思って、こんなことも書きました。
http://toraodoc.blogspot.com/2010/04/blog-post_23.html
引き続き、建設的に議論を広げていきたいと思っています。
よろしくお願いします。

archive