2.24.2009

「ロボット演劇」と「プライベート トレース」

昨年、大阪大学で、劇作家・演出家の平田オリザさんが、ロボットの研究・開発をしている石黒浩教授と取り組んでいる、ロボット演劇「働く 私」が上演されました。その作品の創作プロセスと公演の様子が、チラッとだけテレビのニュースで紹介されていたのを昨年見て、おもしろいなぁと思いました。
そして今週末、手塚夏子が「プライベート トレース 2009」という作品を公演するんですが、もし、平田オリザさんのロボット演劇をご覧になった方、あるいは、面白そうだなと思われた方は、ぜひ、手塚夏子の「プライベート トレース 2009」も、観てくれると嬉しいです。
手塚の作品は、ビデオに撮影された家族の日常の断片なんですが、その映像の中にある身体の動きを徹底的に観察し、微細な動きまで採集し、それをいったん言葉に変換することで、「振り付け」ています。それは、ロボット演劇で金属製の首や腕の動きや発話のタイミングを、プログラム化して作動させるのと、ある面では似ているなぁと思いました。
似ているものの、まったく違うとも言えます。人間の身体の動きは、観察すればするほど膨大で、不規則で、無根拠に動いている(いや、よく観察すると無根拠じゃないけど)。例えば、相手の話を聞いているとき、うなずく、口元が弛む、足を組む、膝や脛を掻く、足の指を曲げる、といった膨大な無駄な動きをしている。
ロボットやCGは、人間らしい動きを追求するのであれば、無駄も含めて身体の表層をモーションキャプチャーしてプログラム化すればいいわけですが(「モーション・デザイン」という研究分野があるらしい)、人間が人間の動きを振り付ける場合、身体の表層に現れている動きをトレースしていくと、身体の内側の骨格や筋肉や様々な器官も変化したり、不思議なことに、意識や心理の深層が「転移」してしまうらしい。それはたぶん、何らかの「共感」であるには違いないし、ロボットやCGでは不可能な作用だと思うんです。
手塚は、ビデオに映っている4年ほど前の私の身体のトレースして稽古すると、その4年前の私が抱えていたストレスのようなものを手塚も抱えてしまったり、稽古をしたあと、針灸の進藤先生のところで見てもらうと、いつも「手塚さん、寅雄さんの身体の反応が移ってますね」と言われるそうなんです。そういう「転移」は、手塚の特異な能力(?)なのかと思っていたら、この間、手塚の作品の稽古に付き合ってくれているダンサーの福留麻里ちゃんが針灸に行ったら、「あれ?福留さんも、寅雄さんの身体の反応が移ってますよ」と言われたそうで、びっくり。
この作品は、2年前に上演した「プライベート トレース」と着想の原点は同じで、ベルリンとポーランドでも上演したんですが、いわゆる再演ではなく、構成も演出も違うし、言わば「解像度」がぜんぜん違うので、一度観た人も、ぜひもう一度観て下さい。

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