1.07.2009

元日の朝、藤野神社にて


藤野囃子保存会は、毎年、元日の早朝に、藤野神社でお囃子と獅子舞を奉納します。
藤野神社というのは、小高い山の上にひっそりと建っている小さな神社で、昔からこの集落の氏子を祀っています。が、常駐の神主さんや管理する人がいませんし、初詣客もいません。それでも、囃子保存会の大人のメンバーは、毎年、元日の夜明け前の星が光る空の下、鳥居をくぐって石段を登ります。
小高い山の上に、暖をとるための薪をドラム缶の中に入れて火を熾し、神社の境内の前に集落を見下ろすように太鼓を並べます。暗闇の石段を登ってきたメンバーが「あけましておめでとうございます」と白い息を吐きながら、ドラム缶の火を囲みます。
6時頃、保存会の会長が「ようし、そろそろ始めるか」というと、笛、太鼓、鉦の潔い音が暗闇の中に響きます。しばらくすれば、東の空から徐々に明るくなります。すると一層、寒さが増します。そこで、大人たちは「清めの酒でもやるか」と、ひとまず休憩。また火を囲んで手を暖めながら、酒をプラスチックのコップに酌み交わし、スルメを炙ります。
いよいよ初日の出が向こうの山から顔を出すとき、みんなが自然に東に向かって手を合わせます。そして、木々の間から新しい光が差し込む中で、ふたたび笛と太鼓と鉦の音を、眼下の集落と、それを取り囲む山々に響かせます。そして獅子頭が取り出され、囃子にのせて獅子が威勢よく舞います。
この元日の朝の奉納は、いつから毎年繰り返されてきたんだろう。厳寒の早朝に、保存会のメンバー以外には誰も参拝客のいない神社で、誰が見るわけでも、聴くわけでもない。ただ、山の上の集落の氏子を祀る神社から、眼下の集落に響かせる。もし、それがなくても、困る人はいないかもしれない。けれども、それがなくなると、とても寂しいことになるような気がする。うん、間違いなく、寂しいことになる。
それが寂しいと思わなくなったら、藤野は、別に藤野じゃなくてもよくなるような気がします。

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