12.01.2008

JR藤野駅前における究極のスローな買い物

今朝、勤め先(東京・市ヶ谷)の最寄りのコンビニで、レジのおばさんの応対が、マシンガンのような早口で、あまりに手早いレジ入力とお釣りの処理だったので、私は衝撃を受けてしまいました。その驚いた自分を省みると、藤野に引っ越してきた結果、藤野のスローライフに慣れてしまったんだなぁと、つくづく思いました。
新宿からJR中央本線で、うまく接続すれば70分の藤野駅。その改札を出て階段を降りると、正面に「ベイスターズマート」という、おそらく神奈川県下の田舎町にしか見られないローカルな食料雑貨店があります。店構えはコンビニなんですが、藤野のベイスターズマートの場合、毎週水曜が定休日で、営業日も夜は20時までなので、コンビニエンスとは、ちょっと言いにくい。
ベイスターズマートの店員さんは、4人か5人くらいのシフト制なんですが、その中で店長と思われるおじいさんがいます。そのおじいさんは、お店の2階に事務所がある地元の建設不動産会社のシャチョーさんらしい。なぜ建設不動産会社のシャチョーが、食料雑貨店のレジの番をしているのか分からないけど、とにかく、シャチョーはレジにいることが多いのです。
たまに、会社帰りに缶ビールを買いに立ち寄ると、シャチョーが「・・・ああ、おかえりぃ・・・」なんて声をかけてくれて、あぁどうも、ただいまです、とか言いながら、ガラス扉を開けて缶ビールを出し、レジに持って行くわけです。
シャチョーは「なに?いま仕事から帰ったの?」とか言いながら、私の手から缶ビールを受け取り、まず顔に近づけて、もう一度缶ビールを顔から離し、老眼鏡の奥の目を細めて、ビールの銘柄を確かめるわけです。私は、ええ、今日はちょっと残業で遅くなっちゃいましたねえ、なんて答えるんですが、シャチョーは私の答えなど最初から関心はなく、缶ビールをくるくる回します。どうやらバーコードを探しているみたい。
「ん・・・んあ・・・ああ・・・」とモゴモゴ言いながら、缶を3回転くらい回して、ようやくバーコードを発見。そして、バーコードリーダーを右手にもって、缶ビールに赤外線を当てる。当てるんだけど、角度がよくないのか、レジは無反応。「・・・うん?・・・あ?・・・おい・・・」とモゴモゴ言い、老眼鏡をオデコに上げて、バーコードを再確認し、もう一度赤外線にチャレンジ。
「・・・ううん、ダメだこりゃ・・・おおい、これ幾らだったかな?」とレジの奥に声をかける。するとレジの奥から、ツッカケを履いたおばあさんがヌルっと出てきて、「はいはい・・・」とかなんとか言いながら、ビールが入ったガラスの扉まで行って値札を確認して「○○○円だよぅ・・・」と言う。するとシャチョーは、オデコに上げた老眼鏡を再び目の位置に下げて、レジのテンキーをのぞき込み、「ええ・・・と・・・○○○円、と・・・」と言いながら、人差し指1本で丁寧に一押しずつ押す。
それからシャチョーは、威勢よく「はい、○○○円ね!」と私の顔を見て言うのですが、私はすでに百円玉数枚と十円玉数枚をレジのテーブルに奇麗に並べている。しかも、お釣りは、できれば財布の中に硬貨を増やしたくないという思惑から、五十円玉でお釣りが来るように計算して余計な十円玉を2、3枚追加してたりする。
シャチョーは、私の視線の先の小銭に気が付き、少し戸惑いの表情を浮かべて「・・・お・・・あ、ああ・・・」と言ったあと、「ええ・・・ひい、ふう、みいの、ひい、ふう、みい、よう・・・」と、これまた丁寧に小銭を数える。そして、私が五十円玉のお釣りを要求していることはまったく伝わらず、何度か小銭を数え直した挙げ句に「・・・十円玉が多いよぅ・・・」と迷惑そうに言い、余計だった十円玉数枚を私の手のひらに返します。
そして、缶ビールの代金としてシャチョーが受け取る硬貨の金額を、これまた人差し指で押し、レジに表示されたお釣りの金額を読むために、老眼鏡をまたオデコに上げて「・・・えー、はい、○○円のお釣りね・・・」と言って、レジの小銭ケースから硬貨を一枚ずつ取り出し、私の手に載せてくれる。そして私が、ああ、どうもありがとね、と言い、店を出ようとすると、シャチョーは最後に私の背中に向かって「はやくウチに帰ってあげなよ、子どもと母ちゃんが待ってんだろ、ええ?」なんて笑いながら声をかけてくれるわけです。
この味わい深いテンポ。藤野のスローライフは、駅前の買い物から始まっているのです。

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1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いいですねぇ、そういうの大好きです。

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