11.20.2008

発酵しつづける岡田利規

一昨日、三軒茶屋のシアタートラムで、カミさんと、安部公房作・岡田利規演出の「友達」を観ました。
間違いなく岡田さんは、いまや世界中の演劇界から注目を集める才能であり、日本ではダンス界、文学界にも波紋を投げかけた、時代を背負う存在になりました。有名になる前に友達になっておいてよかったなぁ。
まだ公演期間中なので、観ていない人は観た方がいいですよ。チケットは入手困難かもしれないけど。これから観る人に悪いので公演の感想は書きませんが、とにかく、観た方がいいと思います。あと、この作品が劇場のレパートリーとして再演されることも、強く期待します。再演されることで、もっと強い作品になる予感がします。
この2、3年、岸田戯曲賞や大江健三郎賞といった大きな賞を与えられてから、岡田さんは尋常じゃないスピードで周囲の評価が高くなり、彼の才能は、グローバルな演劇市場に消費し尽くされるんじゃないかと心配していたんです。しかし今回の公演を観て、ああ、岡田さんは大丈夫だなぁと思いました。
最近ずっと考えていたことですが、食品だけでなく、アートやエンターテイメントといった表現にも、「賞味期限」というものがあるんだろうな、と。市場で大量に消費される表現には、大量の生産・流通が必要で、賞味期限も短くなるんじゃないかと。テレビやテレビタレントはその典型で、売る側は、賞味期限が切れる前にできるだけ売りたいと思うけど、賞味期限が切れれば、廃棄か腐敗しかないわけです。
ところが、賞味期限に束縛されない表現もあって、それは「発酵する」という過程を越えて、常に発酵し続ける状態を維持している表現者と媒体にしかできないんだと思うんです。岡田さんは、私が出会った5年ほど前には既に発酵し、強烈な臭いを発していました。
STスポットという横浜の小さな小さな劇場には、岡田さんのように、ある種の臭いを発するアーティストが集まっていて、そのうちの一人には手塚夏子もいたわけです。お互いに、発酵した酵母が混じり合うことで、いまでも発酵は止まっていません。カビも生えないし、腐敗もしない。臭いはキツいけど。だから岡田さんは、賞味期限には束縛されない。逆に言えば、誰の口にも合うようなアートじゃないことでもありますが。
というわけで、アートやアーティストにとって、「発酵する」という過程は、とても大事です。「人材育成」という趣旨のプログラムが増えましたが、「人材発酵」ともいうべき事業が、もっとあってもいいでしょう。自分の中に酵母を見つけ、培養し、他の酵母と混じり合う。消費されることから自由になるために。

-----------------
sent from W-ZERO3

0 件のコメント:

archive