10.21.2008

経済危機と文化施設

最近のアメリカに端を発した経済危機のニュースと、スティーブからのメールのおかげで、アメリカの文化施設と経済の関係について思い出しています。
私がシアトル近郊に1年間滞在して、KPCという劇場に在籍したのが2003年から04年まで。正確なことは分からないけど、たしかその1、2年前はITバブルの崩壊による不況だったと思います。特にシアトルとその周辺は、マイクロソフト社の拠点があるので、IT関係のベンチャービジネスが集積していたのが、一気に不況の煽りを受けていたそうです。
なので、私が研修に行く1、2年前のシーズンは、集客も資金調達も厳しくて、理事メンバーの多くが入れ替わり、転職を余儀なくされたスタッフもいたそうです。ディレクターのスティーブは、当時のことを振り返ると「何をやっても裏目で、悪循環だった」と言っていました。
それでもKPCはマシだったのかもしれません。隣の市の美術館は、経営に息詰まって無期限の休館。世界的に著名な建築家の設計で、質の高い企画展で私も好きだったのに、あるとき、あっさりと扉が閉ざされました。それでも、数人の美術館スタッフは組織に残って、いつか再開させるために資金調達の努力を継続していました。
よく言われるように、アメリカの文化施設は政府セクターの支援はごく僅かで、民間からの寄付を中心とした財源で運営されています。ゆえに、経済の波の影響を直接的に受けやすいです。経済が好調な時期は、アメリカの税制のもとでは寄付は節税対策としても有効だし、その受け皿としてのNPOの経営ノウハウ、理事の経営責任やガバナンスがしっかりしています。それだけに、景気が悪化して経営不振に陥ったときの、理事が置かれる立場というのは、非常に厳しいと思いました。
いまでも覚えているのは、私の研修当時に理事長だったリッチーさんが、KPC主催のオークションでのスピーチ。
「私たちの劇場への寄付は、単なる慈善活動じゃないんです。この地域の子どもたちへの、地域の未来への投資なんです!」
マイクを握りしめ、ネクタイを緩め、スーツのジャケットを脱ぎ、大量の汗をかきながら演説したリッチーさん。今でも思い出せます。

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