10.29.2008

「天いさ」でお囃子談義

ウチの近所には、天ぷらのおいしい「天いさ」という居酒屋さんがあります。その居酒屋には息子さんが2人いて、兄弟2人とも囃子保存会のメンバーなんです。
たまたま昨日の夜、私一人で天いさに晩ご飯を食べに行ったんです。暖簾をくぐったら、高校2年生の次男がカウンターでオムライスを食べていました。私は、毎週土曜の夜、彼にも太鼓を教わってます。おかみさんが「すみませんねぇ、子どもがご飯食べてて」いえいえどうぞどうぞ、じゃ、私もカウンターでいいですか、と。
天いさのご主人とおかみさんは、私がお囃子を習い始めたことを息子さんから聞いていて、「どう?お囃子の稽古は楽しい?」という話から会話が始まりました。「ウチの子ども2人は小さいときからお囃子に夢中でね。この子は4歳から始めたのよ」とおかみさん。え?ということは、いまの私の息子と同じ年齢からですか。
「お祭りで、ほかの子は夜店を見たりチョロチョロ遊んだりしてんのに、じーっと山車の前で踊りを見てたのよ。狐が好きでね。たいがい子どもは狐を怖がるのに、この子は狐が大好きで、自分も狐を踊りたいって言ったのよ」
高2の息子は、黙ってオムライスを食べている。ご主人が続けて言いました。
「小さいときから子どもたちは、よその祭のお囃子も観にいきたいって言うから、それに付き添ってあちこちの祭に行ったりしてね」
「あたしは夏の暑いときに八王子の祭に付いてって、息子がお囃子を眺めてるあいだ、マクドナルドで涼んでたわよ」
と笑うおかみさん。黙っていた息子は、オムライスを食べ終わって言葉を発しました。
「このあたりだと、八王子か青梅の囃子は毎年観にいく。あと、小金井の囃子は、すっごい上手いよ」
ちょっとあんた、せっかくだからビデオを貸してあげなよ、とおかみさんが言うと、息子は立ち上がって2階に上っていきました。
「あの子は中学の時にサッカーやってて、その時はお囃子の稽古に行かなかった時期もあったんだけど、また最近、お囃子に夢中になってね。ちっとも勉強しないけど、お囃子は好きなのよ」
それに似た話を、ちょっと前にも別のお母さんからも聞いたなぁと思っていたところ、息子は2階からDVDやビデオを5、6本もって降りてきて、それぞれの映像に何が収められていて、どういうところがいいのか教えてくれました。ご主人が、
「長男は、インターネットでお囃子のことを集めたブログていうんだっけ?ブログやってんですよ」
「ブログじゃねえよ、ミクシィだよ。お囃子のコミュニティに参加して情報を集めてんの。どこの囃子には踊りに使う面が何枚あるとか、あそこの祭の山車はデカいとか、そういうこともミクシィで分かったりすんだよ」
へー、すごいねえ。mixiにお囃子のコミュニティがあるのか。行ったこともない地域の、出会ったこともない人と、インタラクティブなメディアでの、ローカルな伝統文化の情報交流。
ジェコのことを思い出した。パプア出身ジャカルタ在住のダンサーのジェコは、YouTubeでパプアの民族文化をチェックしたり、東京のヒップホップのダンスシーンにすごく詳しかったりする。彼にしかない文化的背景だからこそ、世界に通用するダンス作品を作っている。
高2の息子に聞いてみました。誰から、どうやってお囃子の踊りを教わってんの?と。そしたら彼は、ほとんど教わってないんだという。
「昔の藤野囃子のビデオを見てマネしたりして、イベントとか祭の前に、保存会の長老に見てもらう。そこはこうした方がいいよ、とかアドバイスはくれるんだけど、大部分は自分で研究してる。でも、今は踊れなくなった長老が、昔、踊っていた映像を見ると、やっぱカッコいいんだよね。ちょっとした立ち方とかが、違うんだよなぁ」
もう一つ聞いてみた。藤野囃子で、演奏はできるけど、踊り方がよくわからない曲があるそうなんです。そういう場合、他の地域のお囃子に、同じ曲で残っている踊りがあるなら、その地域の踊り方をマネする?と。彼は、今まで考えたこともなかった、というような顔をしてしばらく考えた。するとご主人が、
「やっぱり、違うと思うなぁ。よその囃子と、藤野の囃子は、やっぱ、なんか違うんだよね・・・」
息子さんも、うなずいていました。
なるほどねえ。その違いを大事にするかどうかが、グローバリゼーションの波に飲み込まれない地域文化なのかもなぁ、と。

-----------------
sent from W-ZERO3

0 件のコメント:

archive