10.27.2008

囃子保存会の「じいじ」の話

毎週土曜日の夜、藤野囃子保存会の稽古に行ってるんですが、先々週の稽古の時に、先輩から一枚のDVDを借りました。
そのDVDには、囃子保存会の大先輩であるお爺さんから、後輩の保存会メンバーが舞踊の指導を受けている様子を家庭用ビデオで撮影された映像が収められていました。
大先輩のお爺さんは、保存会の若い衆から「じいじ」と呼ばれていて、おそらく高齢のために立ち上がったり歩いたりするのが不自由らしく、じいじは自宅のベッドに腰を掛けて、その周りを保存会のメンバーが囲んでいます。
まず最初に「じいじ」は、お囃子というのは藤野神社に祀られた氏神様のお祭りのためにあるもので、五穀豊穣を願うものだから、とてもありがたい役目なんだということを語りました。それから、お囃子の中の「ひょっとこ」や「おかめ」の仕草や動きの説明が始まりました。
私がお祭りの時に目にしたときも、その踊りには何かの意味や物語があるようには見えたんですが、「じいじ」が語ってくれたことで、とても明確な意味や物語が分かりました。それは、かつての農村の生活の様子や具体的な知恵を、ユーモアを含めながら親から子に伝えるものでした。
例えば、「ひょっとこ」の親子が登場する舞があります。父親のひょっとこは、息子のひょっとこに「今日は天気がいいから、倉に壁土でも塗ろうじゃねえか」と身振り手振りで語りかけます。そして、鍬で土を掘り起こし、井戸から水を汲み、土に水を含ませてこねる。こうした父親の身体動作がそのまま踊りの振り付けになっていて、少し遅れて息子も振りを真似て踊ります。
振りの続き。壁土にするには土に粘りがないから、父親は自分の「鼻くそ」を土に含めようと、鼻に指を突っ込んで、それを手のひらで丸めてお手玉のように頭上に投げて遊んだりするシーンがあります。そのシーンを保存会のメンバーは「鼻くそ踊り」と呼んでいて、「ねぇじいじ、いまの鼻くそ踊りだけど、笛のどの部分のメロディーで鼻くそを放り投げるの?」とか大真面目に聞いている。そうすると、ベッドに腰掛けていたじいじの指導も熱が入ってきて、立ち上がって自ら笛のメロディーを歌いながら鼻くそ踊りを踊り出す。
こうした踊りの指導の様子を見ていて思ったのは、お囃子そのものは、祭礼として神様に捧げるものであると同時に、農村の生活に必要な知恵を、文字を使わずに、世代から世代へと受け継ぐための具体的な教育だったんじゃないか、ということです。しかも、子どもが飽きたりせず楽しめるように、わざわざ子どもが喜ぶようなユーモアも折り込んでいるわけです。
地域の伝統芸能の面白さに、改めて思い知らされました。きっとまだまだ面白い話がありそうなので、また紹介します。

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