10.20.2008

「ぐるっとお散歩篠原展」の話 (9)

長々と「ぐるしの展」のことを書いてきました。私には、一つひとつのエピソードをつないで考えたときに、篠原地区ならではのアートと地域の関係、地域住民とアーティストの関係があるように思えました。
篠原地区在住のアーティストは、篠原で生まれ育ったというよりも、アーティストとして活動してから、ある時期に篠原と出会って、篠原を選択して移り住んだ人たちが多いようです。そうなった経緯を私は詳しくは知らないんですが、とこあれ、この小さな里山の人口の中で、芸術を生業にしている人の数の割合は、相当多いと思います。
篠原のアーティストは、アーティストとしてだけでなく、地域のお父さんだったり、ちょっと変わった風貌だったり、ただの呑ん兵衛だったりして、そういう顔を地域の人々に見せながら付き合っています。そして地域の人々も、歌を歌ったり楽器を演奏したり、絵を描いたりモノを作ったりして、アーティストとしての横顔を見せます。ときどき、誰がアーティストで誰が普通の人か、分からなくなります。
この地域には、かつて地芝居の劇団があったり、廻り舞台を持つ神社があったりすることから、歴史を遡っても生活と芸能は身近だったことが想像できます。その風土が、古くからの小さなコミュニティの中に、何らかの「芸」を携えた「余所者」を受け入れてくれる土壌を培っていたんじゃないかと思います。
地域外からの余所者が、徐々にこの地域に根を下ろすときも、アートが役割を果たし、そのアートが地域の世代間の交流や、地域外との交流にも役割を果たしています。「ぐるしの展」というイベントだけでなく、夏の大石神社祭礼の奉納人形浄瑠璃もそうだし、たびたび篠原の里で開催される催しもそうです。
たぶん、この地域が外部に開かれるための扉や窓の役割を、アートが果たしているんじゃないかと。アーティストは、この地域の空気が澱まないように新鮮な風を通したり、外が暗闇のときは、この地域から明かりを照らしたりする役割を果たしているんじゃないかと思いました。
「ぐるしの展」は、小さな里山のささやかなイベントですし、現代のアートシーンに影響を及ぼすとか、すごく話題になるニュース性があるとは言えません。ただ、参加してみると、他の地域にはない、アートと生活の関係が見えてくると思います。もっと言えば、この地域ならではの、「豊かさ」に関する価値観が見えてくると思うのです。

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