このコンサートのきっかけは、野村さんが10年以上通った横浜の特別養護老人ホームの「さくら苑」でのお年寄りとの共同作曲ワークショップです。これは私も数年前から話を聞いていて、野村さんと大沢久子さんの共著「老人ホームに音楽がひびく」も読み、昨年、仕事に関連してワークショップも見学させてもらったんですが、すごく楽しいワークショップです。同時に、老人ホームという現場のことを知らなかったので、いろいろ考えさせられました。
ワークショップをやっているときのお年寄りたちは、楽しまれていることが表面上分かりやすい人もいれば、分かりにくい人もいます。いずれにしても、老人ホームに外部からワークショップに参加している私たちにとって、そこでのお年寄りたちはとても魅力的で、私たちを楽しませてくれたり、心を揺さぶられたりします。
でも、老人ホームで暮らしたり、通ったりしている日常でのお年寄りたちは、お世話してもらう人、敢えて言うと「社会的弱者」としての立場で周囲から接触されます。介護認定を受ける時点で、いまが何月なのかも分からない、一人ではトイレに行けない、さっき行ったことを忘れる、という、まったくポジティブではない「認定」を受けて、老人ホームに通ったり、暮らしたりしているわけです。
もし自分がそういう立場だったら、家族に迷惑をかけないためには自尊心を傷つけられても我慢するしかない、という考え方をする以外にはないと思うんです。年老いていくとともに衰えていく自分の悲しさ、それを社会的に認めさせられることの悔しさ、でも家族には迷惑をかけたくないという思いを、どれくらい老人ホームの外側にいる私たちは共感できるんだろうか、と思ったりします。
さくら苑のワークショップでは、Aさんの太鼓は味があるなぁとか、Bさんの大正琴はグッときちゃうなぁとか、Cさんのダジャレにはまいっちゃうなぁとか、それぞれの魅力の発見があります。太鼓が上手に叩けるようになることは目的ではなく、そのことでお年寄りの身体機能や精神状態が回復させることが目的でもない(結果として回復することがあれば喜ばしいことだけれども)。ただ、AさんやBさんやCさんには、私にはないそれぞれの魅力がある、ということの発見、いや、再確認をするだけで、いいような気がします。
さてさて、作曲家・野村誠は、そのワークショップを素材にどんな実験的・野心的な作品を提示するのか。とっても楽しみです。
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