昨日、私が関わっている東京大学文化資源学公開講座「市民社会再生」で、国際法学者の大沼保昭先生の基調講演を聞くことができました。
私は運営委員として、年間を通じたゲスト講師の検討に加わっていましたが、不勉強なもので、大沼先生の活動を知らず、また著書も読んだことがなかったので、木下直之先生が「ぜひ大沼先生に基調講演をお願いしたい」とおっしゃった時は、その意図が掴めていなかったのです。おそらく、今年度の講師の名前を見た人で「なるほど、大沼先生ね」と納得できる人は、そんなに多くはないと思うんです。
大沼先生の近著の『「慰安婦」問題とは何だったのか—メディア・NGO・政府の功罪』(中公新書、2007年)を読んで、そして昨日、大沼先生のお話を聞いて思ったことは、「カッコいい」ということでした。そして、2年目の「市民社会再生」の、「公共性・多様性・マイノリティ」という前期のテーマに、とても相応しい基調講演でした。
講義の最後の質疑応答のとき、「運動家として、社会問題に対して運動体を起こそうとする若い世代にアドバイスをください」という質問に対して、「運動家としてアドバイスができるほど大したことはしていませんが、ケンカのしかたならいくらでも教えてあげます」という答えに、しびれました。あと、「例えば在日韓国人・朝鮮人の方が、私が関わった運動によって、何らかの問題が改善したことについて、私に感謝してくれることがあるけれども、礼を言われる筋合いはないんです。私は日本が好きだから、日本人が好きだから、当然のことをやっているだけですから」という話に、しびれました。
日本人としての誇りを強調して自虐史観に殊更非難するよりも、また、アジア諸国や欧米に対してひたすら低姿勢になるよりも、大沼先生の言説と所作は、本当に、カッコいいと思いました。
2 件のコメント:
はじめまして。以前、駒場の大沼ゼミを受講していた者です。先生の事をお書きになっていたので、ついコメントをしてしまいました。
短い間でしたが大沼先生には大変鍛えて頂きまして、レポートの内容についてお叱りを受けたのも良い思い出です。戦後責任や国際社会の諸問題についてバランスの取れた鋭い論を展開しながらも学生の拙い話に良く耳を傾け誠実に答えて下さる良い先生でした。08年度を以て退官されると言う事で残念でなりません。大学の教務課(頭が固いことで有名)と衝突して「彼らは手強い」と笑っていたのが記憶に残っています。
makotoさん、はじめまして。コメントありがとうございました。
改めて思うんですが、大沼先生の「バランス感覚」は、問題を多様な視点から粘り強く観察することから生まれるような気がします。学生の話によく耳を傾けてくれたという話は、なるほどなぁと思いました。
社会問題についての見方は、とかく「右」か「左」に分類されがちですが、大沼先生の活動や発言は、そうした左右の翼に納まってしまうこと自体を拒絶しているように見えて、それがまた孤高な存在のように思えて、やっぱりカッコいいと思います。
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